「……か、陛下。起きてください」
声が聞こえる。
中途半端に目覚めかけた意識のせいで、少し遠くから呼びかけているかのようにも聞こえる。実際彼は半歩ほどひいた距離に礼儀正しく控えているのだろう。
「陛下」
また聞こえる。さっきより近づいた。
けれど要求には応えず、そのまま狸寝入りを続けることにする。
「…………リム。起きて」
呆れたような嘆息に続き、声とも吐息ともつかぬ風が切りそろえた前髪を揺らした。愛称を呼ばれて頭の芯が急速に覚醒する。一度ゆっくり目を開き――それからぱちぱちと瞬きをし、リムスレーアは意識してしかつめらしい顔を作ってみせた。
「む。トーマか」
「トーマか、じゃない。……起きてたろ」
ごく近くにあった青灰色の瞳が離れてゆく。無意識にそれを目で追い、不自然でない程度に視線をはずして空を見上げた。千切れ雲は白く、ふわふわと軽やかに流れてゆく。
「いい天気じゃのう」
「ごまかしてもわかります。まぶたには変に力が入っていましたし、呼吸も寝ている人間のものではなかった。何かお考えでもあったのですか」
「いや、べつに。何があったわけでもないのじゃが」
そう、べつに特別な何かがあったわけでもない。トーマの言うとおり、彼の声を認識した瞬間に起きようと思えば起きられた。ただ、珍しいなと思ったからなんとなく悪戯をしてみただけだ。いつもならばこんなとき声をかけてくるのは兄か、もしくは姉のような女王騎士であったから。
初夏の風が通り抜けてゆく。さわさわと波打つ草はまだ丈が低くやわらかく、寝そべるととても気持ちが良かった。名も知らぬ黄色い花が鼻先で揺れ、ときおり蜜蜂が耳元でぶんぶんとうるさいけれど、じっとしていればすぐどこかに行ってしまう。
身を起こして彼が来たであろう方向を見やれば、ぽつんと二人の衛兵の姿が見えた。言いつけたとおりかろうじてその存在が確認できるくらいの距離を保って、槍の石突を地に下ろしたまま直立不動している。表情まではわからないが、きっと今はほっと頬を緩めているのだろう。その心情は容易に想像がつく。なにしろこの国の王がしばらく一人にしてくれと、自ら護衛を遠ざけてしまったのだから。何かあってはいけないし、さりとて近づくこともできない。彼らには、女王の命令を言葉通りに遂行することしか許されていないからだ。見習いとはいえある程度融通の利くトーマがやってきてくれて、さぞ安心したに違いない。
「……これだけ離れていれば声はきこえぬであろうの?」
ぽつりと口にすれば、不思議そうな目で見返された。
「普通に話しているぶんには聞こえないでしょう。それが何か?」
「いつまでその堅苦しい口調でいるつもりじゃ」
唇を尖らせる。と、彼は眉をひそめて考え込んだ。視線だけ後ろにやり、衛兵が近づいてくる様子がないのを確認する。あまり気が進まないといった体ではあったが――リムスレーアの望みどおり、トーマは肩の力を抜いた。片膝をついた騎士然とした態度をやめ、あぐらをかいてぺたんと座り込む。
「オレ、そんなに器用じゃないんだけど」
「何の話じゃ?」
彼が女王騎士見習いとして王城に上がったのは三年ほど前のことだ。事前に最低限の武芸、教養と礼儀作法はガレオンによって叩き込まれていたものの、ソルファレナにやってきてからの成長ぶりもまた著しい。そんなことを言って、彼女の兄は相好を崩していた。
それはつまり知識やその他もろもろの吸収や成長が速いということなのだろうと、リムスレーアは解釈している。女王を戴くファレナにおいて、近衛たる女王騎士は精鋭中の精鋭だ。見習いになることさえ難しいと聞いているから、そもそも不器用な人間がおいそれと目指せるものではないのではないか。どうして、いきなりそんなことを言い出すのか。
「だからさ。あんまり頻繁に普通に話してると……そのうち公式の場でボロ出すんじゃないかって不安になるんだよ。太陽宮の人たちはリムさえいいって言えば納得するかもしれないけど、他はそうもいかないだろ」
「ああ、そういうことか」
言われてみれば、彼の危惧も少しはわかる。王族や貴族は生まれながらに公私を区別することを教えられて育つが、十になるまでロードレイクの外にも出たことがないという少年ならば、そんな環境には戸惑いがあるに違いない。
「騎士の品位は主の評判に直結するからさ」
うんとうなずいて、リムスレーアは膝を抱えた。黙ったままトーマの言葉を頭の中で反芻してみる。品位。貴族が特に好んで口にする単語だ。いや、だった、と言うべきか。両親が健在だった頃は貴族たちの権勢も強く、彼らは誰と特定できないように巧妙に出自の知れぬ父や平民出身の騎士であるカイルをこき下ろしていた。あの頃は幼かったし、よもや女王の夫たる父や騎士たちを悪く言うものなどあるはずがないと思っていたけれど。
顔を伏せると、実りの色と称された栗色の髪がさらさらと零れ落ちてきた。指先に巻きつけて、ほどく。それを数度繰り返した後、彼女は顔を上げてもう一度トーマの瞳を見た。
「……わかっては、おる。じゃが、わらわの名を呼んでくれるものは今では本当に少なくなってしまった」
優しい両親と叔母たち、そして兄。兄は今でもそばにいてくれるけれど、もう一人の叔母とも呼べるハスワールはルナスにいてソルファレナには滅多に来られない。リム、リムと毎日さまざまな声で呼ばれ慈しまれていた日常ははるか過去へ遠ざかってしまった。ミアキスやリオンに今更名前で呼んでくれと頼むのも違う気がしてしまう。だったら、立場を知らなかったとはいえまず最初に名を呼んでくれた相手をそのままにとどめておきたいと願ってしまうのも無理からぬことだ。
――と、思いたいのだが。
「迷惑だったかのう?」
おそるおそる問うてみれば、トーマは軽く首を振った。苦笑には違いないけれど、目許をやわらかく緩めて笑う。
「まさか。じゃあさ、ボロ出さないように祈っててくれよ。なんとか自然に使い分けられるようにがんばるから」
「……無理はせずともよいぞ。そなたの気性からして裏表を使い分けるのが苦痛だということは承知しておる」
「いや、大丈夫だって。それにリムのためだと思えば、多少無理したってしんどくなんかないし」
「……そ、そうか」
顔がにやけそうになって、リムスレーアは思わず膝を抱えていた腕に力を込めた。
その立場の特殊性ゆえに、彼女にはずっと、同年代の友人と呼べる存在がいなかった。家族がいて騎士がいて、寂しいと感じることなどなかったし、それが当然だと思っていた。あの頃はただでさえ王家と貴族、元老の間の権力の綱引きが微妙な勢力図を描いていた頃だった。いかに本人たちにその気がなくとも、親しくすることで周囲は未来の派閥ができたと認識してしまう。故に、太陽宮に出入りする貴人の子どもたちとは必要以上の言葉を交わした記憶すらない。
大人の勝手な事情で友人を作ることを許されない娘に、妹に、姪に、せめても子どもらしい時間を。
ことあるごとにかくれんぼだの鬼ごっこだのにつきあってくれた兄と叔母、騎士たちがそんなふうに考えていたことになんとなく気づけたのは、実は最近になってからのことなのだけれど。
だから、女王騎士見習いとしてトーマが太陽宮にやってきたとき、リムスレーアはとても嬉しかったのだ。なんだかんだで兄と過ごす時間を、妹である自分よりも多く持てているらしいと聞いたときには、うらやましくて拗ねてみせたりもしたけれど。とにかくもせっかく初対面のときに対等な立場で話すことができたのだから、それをそのまま貫いてもらうことにした。
彼の背後には今、何もない。だからこそ、まっすぐに向けられる敬意と好意を素直に受け止めることができる。
基本的に、王とは孤独なものと相場が決まっているらしい。だが自分にはどうもそれはあてはまっていないようだ。それはなんと幸せなことか。
そのまま思考に没頭しそうになったところで、彼女はふともう一度空を見上げた。
太陽がそろそろ高くなってきている。あと一刻もすれば正午になるだろうか。
特別な用事がない限り、リムスレーアは午前中のこの時間を武術の訓練にあてることにしていた。女王が武に長けている必要はない、我らがお守りしますと兵たちは言うが、少なくともあの戦いを経たリムスレーアには守られるだけというのはどうにも性に合わないように思える。だから兄に無理を言って、指導を受けられるようはからってもらったのだ。もちろん騎士たちの足元にも及ばないが、それでも最低限のものは身につけておきたい。万が一などあるわけがなくても、何がいつどこで役に立つかわからないではないか。それに、体力をつけておけば多少公務で無理をしてもふんばれる。兄たちを心配させてしまうので、口には出さないことにしているが。
そして今回何故野原の真ん中でうたた寝していたのかといえば、予定よりも早く執務が終わって、ぽっかり時間が空いてしまったからだ。
言伝はしてある。てっきりミアキスあたりが「姫様ぁ、そろそろお時間ですよぉ」などと叫びながらふわふわした笑みを浮かべてやってくると思っていたのに。そう、だから珍しさも相まって愛称を呼ばれるまで粘ってみたりしたのだった。
「そういえば、会議はまだ終わらぬのかのう」
「あ、うん」
兄――女王騎士長以下正規の女王騎士たちは、なにやら大事な話し合いがあるらしく、朝からずっと控え室に詰めている。見習いは内容によって参加したりしなかったり、そのときによってさまざまだ。トーマがここにいるところを見ると、今回は見習いたちはその会議に出てはいないらしい。
「おう――閣下が、もう少しかかりそうだから今日の女王の訓練は見習いに任せるってさ。みんなはりきってるぜー、女王陛下と打ち合えるなんて滅多にないからって」
それを聞いて、苦笑する。
先の内乱の後、ただでさえ少なかった女王騎士の数は半分以下になってしまった。内乱直後は旧反乱軍と呼ぶべきか解放軍と呼ぶべきか、ともかく驚くほどに人材豊富な一団の面々が全面的に協力してくれていたし、今は今で救国の英雄と称される王兄が軍の頂点に立ってにらみをきかせている。だからいいが、将来を考えればこのままでいられるわけがない。国内のごたごたが治まると、今度は早急に騎士の補充をという声があがり始め、人員が集められた。人数こそ少ないが騎士見習いとして年頃の少年少女たちがやってきたことで、太陽宮の一部は今までなかったほどのにぎやかさになっている。トーマは見習いたちの中では一番早くにやってきた上、年長なのでまとめ役のようなこともやっているようだ。ロードレイクでも水の工面に追われる大人たちに代わって年少の子どもたちの面倒を見ていたというから、向いているのだろう。
「期待されているなら申し訳ないのう。わらわ程度の腕ではさすがに不足であろうに」
「そりゃ……オレたちはこれで生きていこうってんだから、リムに負けるようじゃ困るよ」
ひとたび戦ともなれば、兵を率いて部隊を動かし、単独で任務を遂行することもざらだ。要求される資質は多岐にわたり、だからこそ“女王騎士”はファレナの外でも一目置かれる存在なのである。
目下、自他共に認める最強の存在は王兄レイリエート。とにかくみんな早く僕を追い越してね、とは、かの騎士長閣下の弁だった。しかし、負ける気ゼロの闘志にあふれた目で見習いたちに微笑みかけていたので、相当しごかれているのであろうことは想像に難くない。そう、だって、初めて会ったときにはただのやんちゃな少年にしか見えなかったトーマをして、ここまで騎士然とした人間に育て上げてしまったのだから。
見習いのしるしとして二股に分けて結い上げられた髪も、略式の騎士装束も、一分の隙も見当たらない。今はこうして気の抜けた態度でおしゃべりしているけれど、いざとなればおどろくほど大人びた所作で、他国の要人相手に堂々と渡り合うことすらできてしまうのだ。
ガレオン仕込みの戟の腕は、同年代の見習いたちの中でも抜きん出ていると聞く。兄がそれはそれは嬉しそうに語っていたし、リオンもミアキスも即座にうなずいていたので間違いではないだろう。
「騎士より強くなろうとは思うておらぬが……それにしても不公平な気もするのう」
「何が?」
「おぬしとわらわ、鍛錬を始めた時期はそれほど違っておらぬであろうに。わらわとて軍神と呼ばれた父上の子なのじゃ。母上とてお若い頃はそのあたりの兵など軽くあしらえてしまうほどにお強かったと聞いておる。決して条件は悪くないであろ?」
「そりゃ、まあ……」
リムスレーアが何を言いたいのか、いまいち読めていないに違いない。トーマは曖昧な表情で頭をかいた。
「それが何じゃ、これは」
「わ!? いきなり何だよ!」
悲鳴ともつかぬ声をあげられたが、無視して衣の上から彼の上腕をがっしとつかむ。そこはすでに、硬くしなやかな筋肉におおわれていた。
まだ少年と呼べる年頃だ。だから体格自体は華奢だし、父のような野性味もまだない。程遠い。だが確実にその身に蓄積されてゆく日々の成果は、うらやましくて仕方がなかった。両手を使ってもそろそろ指が周らなくなりそうだ。反面リムスレーアの腕はといえば、日増しにやわらかさを増してゆく。腕力は確かについてきているようだが、同い年だというのにここまで差を見せつけられて悔しくない人間がどこにいるだろう。
「わらわの腕がここまで太くなるにはあとどれだけの時間がかかるか! ずるいぞトーマ!」
「なんだそりゃあ! わけわっか……! ん、ねえ」
いつのまにやら大声で応酬していた。そのことに気づいた少年が、声どころか息遣いまでひそませて身を縮める。知らず顔をよせて、二人はひそひそと衛兵たちのほうをうかがった。
「…………聞こえちまったかな?」
「……わからぬのう。ここから見る限り何の反応もないが」
こんなふうに近づきあっていること自体不敬と称されても仕方のない状況なのだが、今の彼女たちにその頭はない。そもそも騎士見習いを咎めだてできるのは同じ見習いかそれ以上の地位にあるもの、すなわち正規の女王騎士か王族だけだ。しかしもちろん、そんなことも綺麗さっぱり忘れていた。
とにかく衛兵たちが一歩も動かないことを見てとって安心したのか、トーマが全身の力を抜く。
「こんなことやってる場合じゃないだろ。早く鍛錬場に行こう」
「ああ、そうじゃった。……まあ、ミアキスやリオンのように細くとも剛の者はおるのじゃし、わらわもなんとか……」
「……だからなんでそんなにこだわってるんだよ……」
べつに、深い理由があるわけではない。敢えてあげるとすれば同い年であることゆえの――ついでに彼は兄に弟のように可愛がられているので――ちょっとした対抗心だ。が、わざわざ口に出して教えてやるのも癪なので聞かなかったふりをして流す。
「えぇー、姫様ったら何にこだわってらっしゃるんですかぁ?」
「ひゃああ!」
「うわあ!?」
いきなりありえないはずの場所からありえない声がして、二人は同時に飛び上がった。飛び上がった拍子に体勢を崩したトーマの足元に、さっとミアキスの足が差し出される。そこはなんとか読んでいたらしく避けて、地面の上を転がり、いつでも切りかかれるように身構えた。
足を差し出したままの恰好の姉代わりの女王騎士――ミアキスが、うふふと口許に手を当てて笑う。
「うーん、まあまあですねぇ。あとはわたしと姫様の間に武器を構えて割り込めば完璧でしたぁ」
「……警戒する必要のある相手とそうでない相手を瞬時に見分けるのも大切だと思うが?」
呆れて言ってやれば、楽しそうに肩を震わせる。
「あらぁ? だって、わたしの声と顔をした人がわたしだって保証はないですよぉ。ほら、今目の前にいるわたしも偽者かもしれません。接近を許してしまいました、どうしましょうトーマくん〜」
「……どうしましょうとか言われても」
見れば、兄レイリエートと、その直属の部下であるリオンもすぐ近くまでやってきていた。トーマは気の抜けた素振りを見せてはいたが、決して油断はしていなかったはずだ。狼藉者が近づいていたならすぐに気づいただろう。それを気取られずにすませたのだから、まだまだ実力に開きがあるということか。
トーマはかすかに唇を尖らせ、しかしすぐに居住まいを正すと、素直にミアキスの忠告を受け入れた。
「肝に銘じます」
「うふふ、よろしい」
「っていうかなんでここにいるんだよ。会議、終わったの?」
「そうだよ。で、一応鍛錬場に行ったんだけど、リムとトーマがまだ来ていないって言うから迎えに来たんだ」
「あー……うん。時間すぎてるの、わかってはいたんだけど」
兄とトーマは一緒に太陽を見上げ、顔を見合わせた。リオンは控えめに両手をひざの前でそろえて、ただ笑っている。
「そうですよぉ、遅刻はいけません。久しぶりに二人になれて楽しかったのはわかりますけどぉ、姫様はこの後もご予定がきっちきちに入っているんですからぁ」
「ばっ! ……かを、申すなミアキス。急ぐのじゃ、すぐゆくぞ! 鍛錬は毎日続けねば意味がないのじゃ」
「はぁい、お供いたします陛下ぁ」
一瞬頭に血が昇ったが、いったい何に対して“馬鹿”なのかは言った自分ですらよくわからなかった。ざくざくと大またで草に覆われた斜面を登る。王族と騎士たちに囲まれ、ますます緊張した風情の衛兵たちに、あとは自分たちが一緒に行くからいいよと兄がささやいているのが聞こえた。
皆があっという間に公人の顔を纏う。空気が冴えて鋭くなる。先ほどまで先輩にいじられてあたふたしていたトーマですら優秀な騎士見習いに戻り、足音一つたてずに付き従ってくる。
実を言えば、こういう緊張感も嫌いではないのだ。
「陛下、本日はどうなさいますか?」
斜め後ろから尋ねてくるレイリエートに、リムスレーアは顔を半分だけ向けて笑いかけた。
「せっかくじゃ。見習いの腕も把握しておきたいのう」
「心得ました」
すでに正規の騎士となってから随分経つミアキスたちと見習いでは、その腕前には雲泥どころかそれ以上の差があるだろう。だが、リムスレーアにとっては違う。年の近い少年少女たちが多いことも相まって、今の自分の立ち位置を知るのにはちょうどいい相手だ。
「じゃあ、トーマは前半僕につきあってもらおうかな。あとはまあ、適当に」
「はい」
歯切れよく返された声は、少しだけ浮ついていた。何しろ兄は別格だ。腕が違いすぎて、全力での訓練となればリオンやミアキスくらいしかついていけない。立場があることだし、見習いたちと一対一で稽古をつけてやることもそう多くないのだと聞いた。
……うらやましい。
しょっちゅうかまってもらっているのにそう思うということは、まだまだ兄離れできていない証拠だろうか。
視線を落とせば、鏡のように磨き上げられた床に自分の顔が映っていた。別段情けない表情はしていない。それを意外に思いつつ、意識してもう一度唇を引き結んでみる。
まあいい、今回は兄をゆずってやることにしよう。その代わり後でトーマにはみっちりつきあってもらう。兄と本気で打ち合った後ならかなり消耗しているだろうし、もしかしたら少しくらい勝ち目がないこともないかもしれない。あくまで、希望的観測だが。
少々ずるい企みをしていることを自覚しつつ、リムスレーアは回廊をすべるように歩いた。
後ろには、慣れ親しんだ気配が四つ。
というわけで捏造トマリムじゅうごさいでしたひゃっほう!(笑)
この二人そのうちくっついたらいいなーとは思うものの、まだこの段階でははっきりと恋愛ではない感じ。仲のいい友達、くらい? リム的には誰がいいかと敢えて問われたらトーマがいい、でも絶対トーマじゃなきゃいけないってほどでもない、みたいな。そっち方面ではまだまだお子様なのです。
太陽宮の人々は兵も女官も含め、内乱を機にかなり人員が入れ替わってることでしょう。リムとトーマが私的な場所ではのんびり友達やってることを知ってて黙ってる人はそこそこの数にのぼると思われる。もちろんちっとも気づいてない人もいる。
トーマは内乱直後からガレオンじいちゃんに師事、王子が帰ってきたとほぼ同時にガレオンに連れられてソルファレナに来たと。同時期に他の都市からも見習い来てるかもですね。まあでも女王騎士って少ないイメージなので、たくさんいる時期でもせいぜい二十人以下だろうか…十七、十八? この話のタイミングでは正規の女王騎士は王子、リオン、ミアキスの三人だけで補充期なので、見習いはかなり多め。十人前後かな。女の子も二〜三人は混じってるかな。そんな感じ。素質だけじゃなくてある程度コネも必要っぽい。まあ王族のそば近くに仕えるわけですから、身分云々は抜きにしても信用できる人物なのかどうか見極め済みの人しか入れないよなあ、と。
トーマの武器はやっぱりガレオンと同じく戟だよなあと思うのですが、一番得意なのはそれだけど剣もいけるということにしております。いつも一本は腰に佩いてるんじゃないかなー。私の脳内ではガレオンじいちゃんもそう。というか女王騎士ってたぶんほとんどの武器は最低限使えるように訓練してますよね。徒手空拳も。おのおの一番得意なものを普段使うってだけで。
いやだってある程度広いとこじゃないと戟使いにくい…でかいし。要人警護に大きな武器は向きません。女王が太陽宮を出ることは滅多にないのだろうけど、大臣クラスの警護で他国に行くことはあるでしょう。いくら位の高い騎士ったって、よその王宮だの施設だのにこれ見よがしにでっかい得物ぶらさげて入るなんてできないでしょうし。…それとも気にしないで持ち込むのか…?
ってあとがきで設定垂れ流してもしょうがないのでこのあたりで切っときます。
ちなみにうちのミアキスはトマリムに対してわりとおとなしめ。遊ぶけど。邪魔もちょっとはするけど。遊びまくるけど。