毛づくろい
「……で、これにはいったい何の意味があるんだ?」
無骨な印象とは裏腹に、さらさらと細く指どおりのいい金髪。
その髪の間を、一見してすぐそうとわかる女物の櫛が何度も何度も行き交っている。ときおり繊細な指先がからまった毛先をほぐすのを、くすぐったそうにしながらもおとなしく受け入れていた男はとうとう疑問を声に出して尋ねた。
「意味……は、ないんですけど」
意味はないと言いながらも何かを思案しているような声。いつ何を話しても滅多に崩れることのない口調に、初めはどこか一線を引かれているような印象を受けていたのだが、もうすっかり慣れてしまった。
結局のところ、これが彼女の地だったらしいし。
「本当に?」
疑うように振り返ってみれば、「本当ですよ」と邪気のない笑顔が返ってくる。
揺れる赤毛に目を奪われるも、前を向けとばかりにやんわりと頭にそえられた手に逆らうことはできず、彼はまた彼女から視線を外すこととなった。
「そうですね……意味は、ないですけど」
「ん?」
「この間、ヤッファさんとマルルゥに会ってですね」
「ああ」
あのでこぼこコンビか。つぶやくと、背後の笑いの気配が濃くなる。
そう、どうやら彼女はご機嫌らしく。
今回の思いつきが気に入っているのか、それとも自分が文句も言わずされるがままになっているのが嬉しいのか、おそらくは両方なのだろうと思うのだけれど。
「で?」
促すと、手を止めないまま彼女は続けた。
「マルルゥがヤッファさんのたてがみ毛づくろいしてあげてました」
なんかいいなあって思ったんですよねー。
彼女の笑顔はどんなときでもいいものだと思うが、機嫌がいいときのそれは格別だ。格別だ、とは思っても。
「…………」
彼はなにやら釈然としないものを感じて黙り込んだ。
おいおい毛づくろいってもしかしてこれもそうなのかおい。
尋ねてみたいがおそらく返るのはなんの悪びれもない肯定だろう。眉根がよるのがわかったが、もちろん彼女からは見えてはいまい。
「毛づくろいってスキンシップみたいなものだと思いません?」
ふと彼女がつぶやいた。
「……ああ……あー、そうかもな」
それは、そうなのかもしれない。その言葉一つにげんなりしかけていた気持ちが少しばかり浮上する。
自分でするのならば、それは身づくろいの一端でしかない。
けれど、他人に――しかも心預けた相手に、優しい手つきでふわふわと触れられるのは。
「悪くない、……かもしれねえな」
「でしょう?」
一瞬止まった手から櫛を奪い取る。
「今度はおまえの番な」
見開かれた瞳に笑いかけて座るように促すと、彼女ははにかんで頬を染めた。
--END.
|| INDEX ||
あとがき?
8月27…だったかな? の日記に書きなぐった話です。
ログ2ページ目以降に流れたのでこっちにも載せてみた。
全然考えずにつらつら書いていたのでネタも文章もちっともひねりがありません(笑)
すきんしっぷ。自覚なくすきんしっぷ。
(気づくと途端に動けなくなる)
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