いつまでも どこまでも





「ガレノス、そこの工具を取ってくれないか」
 キールがこちらに視線を向けないままそんなことを言ってくる。
「ああ、これじゃな」
 近くに放り出されていたそれを取り彼の白い手に渡す。
「ありがとう」

――「ありがとう。ガレノス」
 彼は白い手を差し出しそれを受け取った。
 彼の優しげな碧眼が自分を映す。それを見て思わず微笑む。
「なんだ?ガレノス。どうか……」
「いや、お前さんはまるで子供のようじゃな。いつも何かを求め走り回る子供のようじゃ。未知の何か触れるその姿がな。バリル」
「それは誉め言葉かどうか迷うところだな」
 彼は笑みを含んだまま手を動かす。
「昔、師にもそんなことを言われたよ。あなたが言った意味とは違うが、子供のように自分の主張をするって。引くことを知らない我が儘な子供だと」
「ほう」
「大人になれと。だが、彼の言う大人は私には納得の出来ないモノだった。大きな力に巻かれること。その為に自分の言葉を偽り、執着を消す。それが彼の言う大人だった。なぜだ?間違っているかもしれない、変わっているかもしれないことを頭から決めつけることが大人だというなら私はゴメンだ。子供のままでいい。そう思った」
「それは確かにあたしとは違った意味だが、お前さんへの評価はあながち間違ってもおらんかもな」
「……どこが?」
 彼は思わず手を止めて聞き返してきた。
 ガレノスは笑いをこらえるように言う。
「子供だという事じゃ。引くことをしらん。だからここまで来てしまったのじゃろう?」
 セレスティアまで。言外にその言葉を聞きつけ彼はばつが悪そうにして、再び手を動かしはじめる。
「子供とはそういうモノじゃ。いくら大人があそこは危険だから入ってはいけないと言っても好奇心を抑えられない。だが、それ故に思いもかけない宝物を掘り返すことがある。それは他人に価値はなくとも自分には計り知れないモノだ。子供とは……研究者とはそんなモノじゃ」
 最後のネジを巻き上げながら彼は微笑んで彼は言った
「それなら確かに私は計り知れない宝を掘り起こせたな。それは私にとって何よりもかけがえのないモノ――」

――「出来た!」
 キールが最後のネジを巻き上げて歓声にも似た声を上げた。
 青紫の目を誇らしげに輝かせてこちらを振り返る。
「昔のまんまじゃな」
 ゆっくりと彼の横に立ちそれを見上げた。
「思ったより早く出来上がったのう」
「ああ。」
 滑らかなすべりを持つ樹の感触、銀板に刻まれた言葉も変わらないそれはルイシカにあったオルゴールだった。
 半ば壊れかけていたそれを修繕してアイメンに持ってきたのだ。それが今やっと出来上がった。キールは手を軽くはたき、扉に駆け出すようにしていく。
「メルディ達を呼んでくる!」
「ああ。きっと、待っておる」
 ほとんど返事を最後まで聞かずに飛び出していくキールの姿にガレノスはまたもや彼の姿を思い出す。
 バリルよ。お前さんの宝は彼が守ってくれる。お前さんと同じくらい大事な想いを持った青年がな。
 
 程なくしてアイメンの街に響くその音は昔と変わらぬ澄んだオルゴールの音色。そして軽やかな少女の歓声と小さな赤ん坊の笑い声だった。
 
 いつか彼が娘のために作ったそれは今もこれからも鳴り響く。彼らの元へ――。







--END.




|| INDEX ||


某サイトでクイズに答えてまたもやいただいた小説〜♪
メルディのためにがんばるキール、そしてキールにバリルの姿を重ねるガレノスさん。
うーん、私もキールとバリルは似てると思います〜同感です。
いえ実際はバリルのほうができてそうな感じだけども(笑)。
でもメルディがキールに惚れたのは彼の中にバリルに似たところがあったからってのもあながち…
もちろんそれだけじゃないでしょうけど。
そして。「小さな赤ん坊」の記述。…えええッ!?(爆笑)
一人で狂喜乱舞してました。妖しい人です。
ありがとうございました〜v