時間(とき)の翼





 グランドフォールから数ヶ月。キールは結局セレスティアに残り、メルディと暮らしていた。
 アイメンの復興作業に追われていたキールだったが、今日は仕事が休みになった為、家でのんびり本でも読むつもりだった。

「キール!今日、メルディ新作料理にチャレンジするよぅ♪」
 唐突に朝食の席でメルディが言い出した。
「し、新作!?」
 食事中だというのに、つい叫んでしまう。
「はいな!最近あんまり凝ったの作ってなかった。だから、今日、頑張ってご馳走作るなv」
 ニコニコと楽しそうに微笑むメルディとは裏腹に、キールは一抹の不安を覚えた。
 確かに、最近はメルディも、だいぶインフェリア料理に慣れてきてはいたが、新作となるとやはり不安がよぎる。
 だが、そんな事はとても言えず、キールは顔を引きつらせつつ、
「た、楽しみにしてるよ…。」
 と、言うしかなかった。
「それで、キール、今日はどこか出かけててくれるか?メルディ、キール、ビックリさせたいよ!」
“家でのんびり本を読もう計画(笑)”は、脆くも崩れ去ってしまった。
「……判った。あんまり無茶するなよ。」
「大丈夫よ〜!」
 えっへん!と誇らしげに胸を張るメルディに、キールは溜息を一つこぼした。
 どんな料理になるか気にはなったが、とりあえず出かける事にした。



何処かへ出かけると言っても、キールの場合、行き付く先は決まっていた────ハズだったが・・・

 “蔵書点検の為、本日休館”という札が、入り口に無情にも掛かっていた。

 仕方なく、キールは公園のベンチで本を読むハメになった。
 しばらく読書に没頭していたが、何となくメルディの料理の事が気になってしまい、集中できなくなり、読書を切り上げ、ボーっと空を眺めていた。
 珍しく晴れ上がって、気持ちの良い天気だった。

(いい天気だな。こんな風に空を眺めるなんて、久しぶりだ…。)

 ここ数ヶ月、まともに空なんて眺めた事のないキールだったが、思わぬハプニングにより、ぽっかり時間が空いてしまったのが功を奏したのか、今まで感じなかった事を考えていた。
 
 ふと、今朝の楽しそうなメルディの様子が頭をよぎる。

(そういや、メルディに対して僕は何をやってあげたんだろう……メルディはあんなにも僕の為に色々やってくれているのに…)

 そう思うと、さっきまでメルディの料理に対して不安しかなかった自分が、急に恥ずかしくなってきた。


 ************


 どれ位経っただろうか。辺りはすっかり夕焼け空に変わっていた。

「……ル!キール!」
 メルディの呼ぶ声にやっとキールは我に返った。目の前にメルディが立っていたのに全く気が付かなかった。
「メルディ?」
「もう!こんなトコに居たか。メルディずっと探してたよ!
 図書館行ったけど、休館だったからキールどこ行ったか判んなかったよ!」
 心当たりを随分探したのだろう。キールを見つけたメルディは、心底ホッとしている様子だった。
 そんなメルディに対して、申し分けない気持ちになってきた。
「ごめん、僕も行きたい場所なくって…」
「うぅん。キールがせいじゃないよ。メルディが出かけてくれって言ったせい。
 でも、見つかってよかったな!はよぅ帰ろ!料理冷めちゃうよ〜!」
 せかせかと、キールの袖を掴むメルディの手を握り、キールは呟くように言った。
「メルディ」
「?何か?」
「メルディはこんなにも僕の為に色々やってくれているのに、僕はメルディに対して何もしてない・・・」
「急にどうしたか?」
 きょとんとしているメルディだったが、がくんと頭をたれているキールをみていると、とても愛しい気持ちになった。
 うなだれているキールの手に、メルディはもう片方の手をそっと重ね、
「キール、何もしてなくないよ。メルディ、キールが居てくれなかったら一人ぼっちだった。だから、キール、気にする事ない。」
「でも……」
「それに、誰かの為に何かをしてあげること、とってもうれしい。メルディ、今がとってもしあわせよ。」
「……メルディ」
 メルディがそんな事を考えているなんて、夢にも思わなかったキールだったが、幸せそうに微笑むメルディを見ていると、不安だった気持ちが楽になっていくのが判った。
「はよぅ帰ろ!メルディお腹すいたよ!」
「そうだな。で、ご馳走とやらはうまくいったのか?」
「はいなvキールきっとビックリするよぅ♪」
 そう言って、メルディはキールの手を引き歩き出した。
 夕焼けの中、繋いだ手の温もりを感じながら、
(焦る事はない。ゆっくり考えていけばいいんだ────)
 キールはそう思った。
 ────そう、二人の時間はまだ始まったばかりなのだから────




 END






|| INDEX ||


紫雲英の戯言。
ををををーうう。
とにかく二人とも健気すぎてたまりませんな〜v
大好きな人のために自分は何をしてあげてるんだろう?
ぶつかる疑問に、でもお互い別に特別なことを望んでるわけじゃなくて。
いいですわ〜こういうの。
ほんとにほんとに好きでたまらないんだよって伝わってきますね…
そしてメルメルのお料理はどうなったのだろう…気になる。気になる!(笑)
このあと「おいしいか? おいしいか?」とか聞かれて、
顔真っ赤にしながら「ああ、おいしいよ…」とかって…ぎゃ〜〜〜vv
はっ…いかんいかん(戻ってこーい)
ありがとうございました〜v