今ここにあること
グランドフォールから五日。
キールとメルディは復興途中であるアイメンの街の片隅にいた。
そこは真新しい墓が並ぶ墓地だった。ヒアデスの襲撃により以前の住民はメルディを入れてたったの三人。大勢の被害者が今ここに眠る。そしてまた新たに一つの墓が加えられたばかりだった。二人は今その墓の前に立っていた。
バリルとシゼル。
メルディの両親である二人の墓だ。
ネレイドに操られていたとはいえ、グランドフォールを、この街の悲劇を生み出した人物である一人であるシゼルをこの町に葬るのは始め二人はさすがに良くないだろうと思っていた。だが、ちゃんと二人を弔いたいと体が治ったばかりの状態でルイシカに行こうとするキールとメルディに以前からの住人であるサグラがここに作ることを申し出たのだ。 彼は襲撃に際し妻であるブレンダと見習い弟子であるハミルトを亡くしていた。いくらネレイドに操られていたとはいえ感情的に割り切れるものではないのだろうに。キールはただ黙って、メルディは彼に泣きすがりながらその感謝を受け入れた。
墓の下にはミイラ化したバリルの発見できた遺体の一部と以前シゼルが身につけていたというアクセサリーが埋めてあった。シゼルの遺体を見つけることはできなかった。あれだけの爆発だ。おそらく……。
「キール」
「ん?」
今まで黙りこくっていたメルディが小さな声で呼んだ。それは微かに掠れておりともすれば風の音に紛れてしまいそうだったが、キールは彼女のふわふわ頭を撫でて返事を返した。
「ありがとな」
そうして俯けていた顔を上げ少し笑って見せた。キールはしばし、その笑顔を悲しげに見つめ、それからメルディの頬を手のひらで優しく包み込んだ。
「無理に笑おうとするな。お前は両親を失ったんだ。悲しくて、辛くて当たり前なんだ」
「でも」
こんなに小さな体で一体どれだけの傷を受けてきたのだろう。それでも人を思いやり慈しもうとするその魂、貫く想いの強さに何度驚かされ、愛おしく思っただろう。
「誰にも文句なんか言わせない。お前は精一杯やった。誰よりも……せめて僕の前でそんな取り繕うな。そんなことしないでくれ、頼りないかもしれないけどずっとそばにいるから」
「……いいの?」
「当たり前だ」
聞くなよそんな当たり前のこと。キールはなんだか少し腹が立って彼女の頬から手を外し代わりにそのまま手を背に回した。抱きしめる腕に力を込めると、メルディの小さな手がキールの背に回された。
泣いていい?本当にそばにいてくれるの?そんなことが許されるの?私は生きていていいの?闇の極光術を持つ自分が?いつか自分は母親と同じ事をするかもしれない。次々と抱く疑問と不安。それでも今はただこの人にそばにいてほしい。こうされているだけで、名前を呼ばれるだけで、疑問と不安はまだあるがそれ以上の暖かさと希望が膨らんでいく。いつからか次第に大きくなる嗚咽に体を震わせた。
何に願うのか、何に許されるのかわからないけれど、今はただこの人とこうしていたい。
風に揺れる、墓に添えられた白い花から香るかおりが二人を包んだ。
「そろそろ風が冷たくなってきたな。もう帰ろう。きっと子供たちも心配している」
「そだな!」
照れた表情で差し出された大きな手。メルディは重ねようと手を伸ばしたが一瞬動きを止めた。目を瞬かせる彼ににっこりと笑って見せ、すかさず彼の腕に自分のそれを絡ませた。
「うわっ!」
突然のそれにキールはバランスを崩しかけたが、何とか脚を踏ん張って耐えた。
「メルディ!」
怒って見せたキールにメルディが花のほころぶ笑顔で言った。
「キール!ずっとずっと一緒にいような!メルディがおばあちゃんになるまで」
キールは真っ赤になったがしばらくしてから蚊の泣くような声で返事を返した。
「……ああ…… 」
「?キール今なんて行ったか?」
風にまぎれて聞こえなかったのか、首を傾げるメルディ。キールは真っ赤になったままの顔を背け、今も昔も変わらない照れた口調でいった。
「何でもない!!」
重ねた手はお互い長い年月共に皺も増えたけれど、暖かさも心地よさも変わらない。
墓は皆随分古く、たくさんの真っ白い花で埋もれていた。
おしまい!
|| INDEX ||
某サイトで軽〜い気持ちでクイズに答えたらなんとほんとにいただいてしまいました!
いやなんかラッキーv えへえへ。ありがとうございました!
前半はED直後、後半は数年後…ですね。
最初後半読んだとき「子供ッ!? そそそそんなキールさんの口から『子供たち』なんて
言葉が自然に出てくるなんてッ!?」と、アホなうろたえかたしてました。
子供いたら『子供たち』言うのんは当たり前やん、別に(笑)。
しかし結局この二人は何年たっても変わらないのですね。
メルディがねー、メルディが可愛すぎですわほんとに。
キールもキールで「漢」だしv かっこええ…
この二人はこれからもこうやって支え合いながら、幸せをかみ締めながら生きてくのでしょう。
幸せになれよ〜…
ちなみに題名つけたんは紫雲英ですが、あってるかな?
他によさそうなの思いつかなかったのよねん…
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