眠れない夜は。
「キール…?」
ひょいっと扉の影から顔を出したメルディはその部屋の住人であるキールに呼びかける。
よく見てみると彼はベットの上に座ったまま読書をしていた。
邪魔してはいけないかな、と思い扉を閉めようとする。
が、読書中だというのに声が耳に届いたらしい。彼にしては珍しいことだ。
こちらには目を向けないまま話し掛けてきた。
「どうした?眠れないのか?」
「……。」
メルディは返事の代わりにゆっくりと首を縦に振った。
するとキールは溜め息をついて、こちらに目を向けた。
「?」
「…ほら、その、来るなら来ても良いぞ。」
言いながら少し頬を染め、キールは小さく手招きをする。
「……ありがとな。」
「”な”は余計だ。」
そう言いつつ、いつも自分を気遣ってくれている。
そんなキールに感謝しながらメルディは後ろ手に扉を閉めた。
「どうした?ここの所よく眠れてないみたいじゃないか。」
単刀直入に聞いて来るキール。一見無節操のような言い方だが、メルディは分かっている。
これが彼なりの優しさなのだと。
「…よくわからないよ。けどな、何だか、…眠れない。」
メルディはキールの問いに正直に答えた。
彼にはこういう事を隠しても無駄だ。すぐばれてしまう。
だから、素直になれる。
「……ちょっと待ってろ。」
「ほえ?」
そう言ってそそくさと部屋を出て行ってしまった。
状況がうまく理解できないメルディはそのまま暫く止まってしまった。
(……きーる?)
はっとして立ち上がるが、特に何をするわけでもない。
しょうがないのでキールが帰ってくるのを待つことにした。
(…遅いなーキール…)
まだ1分も経っていないと言うのに少し苛立ちを感じ始めた。
仕方ないのでキールの部屋を座ったままぐるりと見回してみる。
使う物以外は本当に必要最低限しか整っていないが、その分書物の数が膨大だ。
特に徹夜で何か調べ物をしている時はそこここに本がばら撒いてあり、足の踏み場が無い。
メルディはそんな時は夜食を持って行く。
頑張っているキールを少しでも応援したくて。
でも頑張りすぎて疲労が溜まり、事が済んだ後はいつも爆睡する。
そんなキールを見るのは少し辛かった。
いつか居なくなってしまいそうで。
急に、怖くなる。
今何処にいるんだろう?
もしかして何か有ったのではないだろうか?
不安だけが募る。
耐え切れなくなってメルディはキールを探しに行こうとドアノブに手を掛けようとする。
途端、ドアが開かれた。
「…メルディ?」
気遣わしそうなあの人の声。
(……良かった…)
ホッとして胸を撫で下ろす。
その様子を不安に感じたのか、キールが怪訝な目をしてメルディを見た。
「っキール!遅かったよ!メルディ心配した!」
平静を装おうと明るい口調で話し掛ける。
が、それがキールの通用するはずもない。
隠し事が通じない事は、もう分かっていたのに。
「メルディ、どうした?」
優しく語り掛けるように言葉を紡いでくれているキール。
こんな時はいつも嬉しいような、切ないような…不思議な気持ちになる。
「…ありがとな。」
そんな彼に心からお礼を言いたくて、自然と笑顔が出来た。
「な、何だよいきなり!?まだ何もしてないぞ!?」
「してるよ。」
「…は?」
貴方がここに居てくれる事。
それだけでこんなにも暖かいなんて。
…貴方は、気づいてる?
「キールが、大好き…。」
小さくて、でも消えない炎のような暖かさ。
辺りを照らしてくれて、自分を照らしてくれて。
そんな貴方が大好きで。
「…メルディ…」
二人とも立ち尽くしたまま顔を真っ赤にしている。
「ハ、ハーブティーを煎れた!!これでも飲め!」
そう言ってキールは片手に持っていたお盆から一つカップを取ってメルディに突きつけるように渡す。
とりあえず今の状況を何とかしたくて行動に出たが、ぶっきらぼうな言葉と動きしか出来ない。
自分を情けなく感じる。どうしていつもこんなふうになってしまうのだろう。
だが、メルディはそんな事は気にも留めていないようだ。
「ありがとなキール!貰うな!」
嬉しそうにカップを受け取り口を付けた。その姿に安心してホッと息をつく。
辛い表情をしているのが痛いくらいに分かったからどうにかしたくて。
自分が彼女に出来る事と言ったら、これ位しか頭に浮かばなかった。
でも。それでも笑ってくれた。
(良かった)
ベットの上に座っているメルディの隣に腰を降ろし、自分の分のハーブティーに口を付ける。
……そして、思う。
(こいつくらい、素直に物を言えたらな…)
途端先程の事を思い出して顔を赤くした。
『キールが、大好き…』
言えない。まだ自分には。
もう少しだけ、待って欲しい。
(本当にもう少しだけで良いんだ。)
彼女がこの後安心して眠ることが出来たのなら、言おう。
明日の、朝。一言。
『僕も、お前の事が――――――』
--END.
|| INDEX ||
紫雲英の戯言。
冴月ゆとさんの「Sky−Fly」にてキリ番200踏んでいただきましたv
…なんか初めて行ったときいきなり200だったんですよー。
「これは運命に違いない」と勝手に思い込み、キルメルリクエストしたのでした。
うう〜いいですねえ〜可愛いですねえv
台所でね、キールさん難しい顔しながら安眠にいいハーブティーの調合思い出そうとしてるんですよ。
そんでその頃メルディはメルディでやっぱりキールのことを考え中。
……あああバカップルめがあ!(どつき)
さて次の日キールさんは果たしてメルディに告白返しクロスカウンターをかますことができるのか!(笑)
できないに千ガルド。
いやはやありがとうございました〜こっちまで幸せになりますv
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