嘘つきは嫌いだ。
 出世のために、気に入られるためだけに心にもないことを並べたてるものたちを見てきた。
 欺瞞に満ちて、保身のためにばかり知恵を回すものたちを見てきた。


 うそつきは、きらいだ。




偽り談義





「キールー? キールー?」
 耳に馴染んだ少女の声が聞こえる。二階の寝室で明日のための荷造りをしていたメルディは、扉を開けて踊り場の手すりから身を乗り出した。
「ファラ? どしたか?」
 階下の居間では今しがたの声の主、ファラがお玉を手にうろうろと歩き回っている。ソファの背もたれごしには赤毛の後ろ頭が見えた。リッドだ。
「あ、メルディ。……ねえ、メルディはずっとそこにいたんだよね? キールもいる?」
 続き間のキッチンからシチューのいい匂いがぷんと漂ってきて、メルディの腹がくう、と控えめに鳴った。そういえばもう夕食時だ。
 ここはアイメンのメルディの家。ガレノスに会い、次は港町ペイルティを目指そうということで話がまとまった。けれどルイシカは廃墟の街。駅の周辺にはささやかな市が開かれてはいるものの、手に入る物資や食糧の種類不足は否めない。ペイルティまでは距離がある上にまともな集落もないため、一度アイメンまで戻って準備を万端に整えてから出発しようということになったのだが。
「うーん、メルディは知らないよー」
 投げかけられた質問に、彼女はぷるぷると首を振って答えた。
 ちいさな家なのだ、まさかこの中にいてファラの声が届かないなどということはあるまい。どうやらキールは他の仲間たちが気づかないうちにどこかに出かけてしまったらしい。
「んもぅ! ごはんまでには戻ってきてねって言ったのに!」
 腰に手を当ててぶつぶつぼやくファラ。ソファに座っていたリッドが、クィッキーの大きな尻尾を手でもてあそびながら振り返って笑った。
「無駄無駄。あいつの頭ん中にはメシのこと考えるスペースなんざありゃしねえんだから。おおかたどっかで街の連中としゃべってんじゃねーの? また小難しいことをずらずらとさ」
「リッドが頭の中はごはんと寝るコトだけだけどな〜♪」
 軽やかな足取りで階段を降りてきたメルディに楽しげに言われ、リッドががくりと頭をたれる。ファラは思わずぷっと吹き出してから、恨めしそうな彼の視線を感じて慌ててそっぽを向いた。
「と、とにかく……キールがどこに行ったか、だよね」
 困ったなあ、と頭を掻くファラに、メルディはぱっと手を上げた。
「はいはいはい! メルディキール探してくるよー!」
 ファラはごはんつくってるし、リッドはきっとたぶんまいごになっちゃうからな!
 自信たっぷりに迷子になると言いきられてしまい、リッドはかすかに眉根を寄せたが反論はしなかった。
 とりあえず、そういうことにしておけば探しに出ずともすむだろう。メルディが言うような迷子になるかもしれないなどという恐れは毛頭なかったが、何より自分は今空腹なのだ。こんな状態で慣れない町を、どこにいるかもわからないキールを探して奔走しなければならないなどごめんこうむりたかった。
「おう! じゃ頼むぜメルディ。オレはメシができるまで一眠りさせてもらうからさ」
 リッドはそう言うと、ソファにごろんと寝転がった。頭の下に尻尾を敷かれてしまったクィッキーがグイィ、と妙な抗議の声をあげるのにもかまう様子はなく、すぐさま寝息が聞こえ始める。
 そんなリッドに、少女二人は顔を見合わせて苦笑を洩らした。
「じゃあメルディ、お願いするね。でも一人で大丈夫?」
「だいじょぶよ! メルディここで育ったね、アイメンはメルディがお庭!」
 そうだね、とファラはうなずいた。彼女自身も、生まれ育ったラシュアンの村には知らない場所も恐ろしい場所もない。世界が違えど、こういうことは同じなのだろう。


 夜闇に沈んでもなお美しい光を放つ街中に、淡紫の頭が元気よく飛び出していった。












 ちいさな工房の片隅。そこにしつらえられた、見かけはたいしたことはないけれども性能はやたらと高いらしい炉を前に、二人の若い男が肩を並べてしゃがみこんでいた。
「見てろよ……ここで、こうして、こうすると……ほら」
「へえ!」
 地晶霊の踊る炉の中で、溶けた鉱石が紅く輝いて柔らかく軌跡を描く。単なる鉄の棒が手指と変わらぬこまやかな動きを見せる。目の前で、まるで魔法のようにあっというまにさまざまな造詣が完成されてゆく。
 キールは目を輝かせてそのさまに見入った。
「どうだ? ざっとこんなもんよ!」
 自慢げに胸を張る青年に知らず笑いがこみ上げてきて、ついつい頬が緩んでしまった。彼はおごったり威張ったりする人間はあまり好きではなかったが、この青年に対しては別段嫌な感情は生まれてこない。
 自らの能力や努力の結果を純粋に誇る。それは、彼がインフェリアで見てきた学者達とは一線を隔しているように思えたためだ。
 いや、彼らとて研究をはじめたときの気持ちは同じだったのかもしれない。同じだったに違いない。……ただ、いつのまにか目的が気づかずすりかえられているだけで。
 自分のように。
 あのまま観測所にいつづけ、もしくは大学に復帰していたとしたらきっと自分は自分が何を望んで学問を始めたのかを忘れたまま、それに気づかずにいたかもしれない。何の疑問も持たず、おそらくは大学を主席で卒業した後に王立天文台に招かれ、そしてあのゾシモスのようにいつのまにか飼いならされるだけの存在に成り下がっていたかもしれない。
 もちろん実態を知っていく段階で目が覚めるかもしれない――その可能性もまた充分にあるが、それでもきっと、ああも簡単に往年の夢と定めていたものを切り捨てられたのは、きっと。
 すっとまじめな顔つきになって考え込み始めたキールを、工房の主――ククロルはいぶかしげな目つきで見上げた。
 性質の似た相手のことだ、一度考えに沈むとちょっとやそっとでは戻ってこられないだろうということはわかる。少しつまらないような気もしたが、彼が思考に決着をつけるまではおとなしく待っていようと判断して、ククロルは音をたてないように炉の火を弱めた。
 ふと、開け放した扉から風が流れ込んでくる。
「ククロルー! いるー?」
「キールぅ! いるかぁ?」
 少女達の声に反応したのか、キールがはっと顔を上げた。ククロルはそんな彼を一瞥してから急ぎ足で入り口に向かった。
「どうしたんだ二人とも?」
 ひょこんとカウンター後ろから顔を出す。二人いた少女たちのうちの一人、ロッテが安堵したような笑みを浮かべて抱えていた大きな袋をどさりと床に下ろした。
「野菜、届いたから。今日ククロル取りに来なかったでしょ?」
「ああ! そういえば!」
 ククロルは額を叩いて天を仰いだ。今日は週に一度、市まで頼んでおいた食糧を取りに行く日だったのだ。昼からキールがひょっこりやってきて、それからずっと二人で夢中になってああでもない、こうでもないといろいろ実験を繰り返していたからすっかり忘れていた。
「悪かったなロッテ、重かっただろう?」
 手を伸ばして袋を受け取りながら謝ると、彼女はかすかに頬を染めて首を振った。
「ううん、大丈夫だよ。メルディも手伝ってくれたしね」
 傍らではメルディがにこにこと二人の様子を見比べている。彼女の用事は何なのだろう、と思った瞬間、彼はメルディと未だ背後の部屋から出てきていない友人のつながりを思い出した。
「ああ、メルディはキールを迎えに来たんだな? ……そういえばもう夕飯どきだっけ」
「そうよ〜。じゃあやっぱりキール、ここにいるんだな?」
「いるいる。おーい、キール!」
 呼びかけるとのそりと青紫色の頭が現れた。メルディはぱっと笑顔を見せると、いかにもしぶしぶといった様子でのろのろ出てくる彼に近づいて強引にその腕を取った。
「ほら、帰るよ! ごはんごはん。ファラが待ってるよー」
「……めんどくさいな。一食くらい抜いても別にどうってことないのに」
 本心なのだろう、ぽつりと洩らされたつぶやきに、メルディが眦を吊り上げる。
「ダメ! キールが食べないはよくないよ!」
「……平気だよ」
 キールは鬱陶しそうに前髪をかきあげた。なんだか不機嫌だ。せっかく楽しんでいたところを邪魔されて腹が立つのはわかるが、何もロッテやククロルの前でまでいかにも「自分達は仲が悪いです」と主張するような態度を取ることはないものを。
 少しばかり気持ちがしぼんでしまい、メルディはしょぼんとうつむいた。
 駄目だ。駄目だ、こんなことでは。いつものとおり、笑いかけて強引に連れ出してしまわなければ。そうすれば、彼はきっと呆れながらもちゃんとついてきてくれるだろう。
 けれど、メルディの顔は笑みの形にはなってくれなかった。自然、続く言葉も抑揚のないものになる。
「……ほら。帰るよ。キール食べないはよくない。メルディはキール心配だから……倒れちゃったら、メルディヤだよ」


「心配? ……嘘だろう?」


 冷ややかな声が返ってきて、メルディは弾かれたようにキールの顔を見上げた。
 声から予想したとおり、彼はその端正な面に冷笑を張りつかせて彼女を見下ろしていた。
 どくん、と心臓が収縮する。
「………………う・そ?」
 声が震える。手も震える。止まらない。
 止まらない。
 そんな彼女の様子に気づいているのかいないのか、キールは表情もそのままに言葉を続けた。
「心配なんてのは、好意を持った相手に対してすることだ。だが、おまえはぼくに好意なんて持っちゃいない。口だけだ。……口先だけで、好きだとか心配だとか、……あいにくとぼくは嘘つきは嫌いなんでね」
「そんなことない……メルディは」
 メルディは力の入らない手で彼にしがみつこうとしたが、その手は今度はあっさりと振り払われてしまった。行き場のない手のひらがしばし空中をさまよい、……落ちる。
 視界の隅ではククロルとロッテが気圧されたように二人を見ているが、そちらに意識を向ける余裕などない。
「見てればわかるんだよ、それくらい! ぼくはそんなにおめでたい人間じゃない!」
 キールは一声怒鳴ると、改めてメルディの顔を覗き込み、微笑んだ。ひどく優しげな表情、優しげな声。なのに暖かさなんて微塵も感じられない。至近距離まで近づいてきた深い色の瞳に鼓動が速くなるのを自覚したが、今このとき彼女を支配するものは、違う状況であれば胸に芽生えたかもしれない甘さなどではなく戸惑いとほんの少しの恐怖だった。
 出会って以来はじめて見た、彼の顔。
「……覚えておけ。ぼくは、嘘つきは、嫌いだ」
 そう言い捨てるとキールはさっさと工房の入り口をくぐり、出ていってしまった。
 ぐら、と視界が揺れる。
「……なんで?」
 メルディはつぶやいた。涙声を察してロッテが彼女に寄り添ったが、そのことにすら気づけなかった。
 嫌いなんかじゃない。嫌ってなんかいない。


 最初は怖い人だと思った。確かに少し、苦手だった。いつもいつも怒ったような目つきでこちらをにらんでいて――話しかけても相手にしてくれなくて。
 だけど、彼は。
 父と同じ、『インフェリアンの学者』。彼女にとって、好意を寄せる理由はただそれひとつでも有り余る。
 それだけではない、あのファロース山の頂上で、反逆者呼ばわりされてもなお胸を張ってまっすぐに兵士達を見返していた彼を見て。
 そうして、はじめて見る異世界の景色に技術に、子供のように目を輝かせる彼を見て。
 素直に好きだと思ったのだ。こういう人は、好きだなと。

「…………メルディは、すきなのに…………」

 確かに自分は嘘つきだ。もしも彼が、自分がひた隠しにしていることに気づいてしまったというのなら、それは確かに弁解の余地などない。
 ただ嫌われたくなくて、一緒にいて欲しくて、自分はそれだけのつもりだったけれど、確かにこれは保身以外のなにものでもない。
 今までの拒絶など、たいしたことはなかった。あれは単なる無知ゆえのものだったのだから。けれど、今度は違う。直感的にわかる。きっと軽蔑されたのだ。卑怯者だと思われたのだ。
 キールの目に自分がどれほど醜く映っているのかを想像してしまって、メルディは冷たくなってきた手を握りしめて身体をこわばらせた。


 嫌わないで。好きになって、お願いだから。


 夜毎夢の中で呪文のように繰り返す言葉は、ともに枕を並べて眠るファラですら知らない。


 ひとつ年下の少女の腕の中で、メルディは声も出さずに泣き崩れた。












 なんだか腹の底がむかむかする。紫色の光が美しく彩る夜道を早足で歩きながら、キールは胸につかえるものをなんとか吐き出してしまえないかと何度も咳きこんだ。
 が、もちろん何も出てこない。
 街灯の柱に手をついて息を整える。細く長く伸びた影はひとつきりで、本当ならば今ごろ隣で踊るように飛び跳ねているはずの少女のそれはなかった。
「……くそ」
 キールは毒づいて、いつのまにやら額ににじんでいた汗を袖でぬぐった。
 ひどいことを言ってしまったという自覚はあるのだ。けれど、動き始めた口は止まってはくれなかった。自らの心の動きのみに気を取られて、他人を思いやる余裕をなくすなど。いつものことながら、自分のちいささが身にしみて情けなくなる。
 あのとき。
 あのとき彼は、三人の会話を工房の扉の影から見ていたのだった。微笑ましいやりとりを交わすククロルとロッテ。メルディでなくとも笑顔になってしまうのは当然だろうと思えたが、その後がいけなかった。その後自分が姿を現した途端、彼女の笑顔がかすかに変化したことに気づいてしまったから。
 はりつけたような笑み。
 どう考えても意識して作ったものだった、あれは。
 ククロルやロッテにはあんなに素直に笑顔を向けられるくせに、どうして彼女は自分に対しては作り物の、はりぼての笑顔しか向けてこないのだろう。
 よくよく思い起こしてみれば、インフェリアにいた頃の彼女の笑顔はほとんどあれと同じものだった。いつもにこにこ笑っていて、どんなに邪険にしてもまとわりついてきたから、そういう性格の少女なのだと勝手に思い込んでいたけれど。
 故郷であるセレスティアに戻り、慣れ親しんだ街の人々に接するときの彼女を見てそれは大きな間違いだったということにようやく気づいたときには、もう手遅れだった。
 胸がむかむかする。


 どうして自分には。

 どうして彼らには。


 唐突に心の中に浮かんだひとつの言葉がことりと音をたてて然るべきところに納まったのがわかって、キールはふと唇の端を引き上げた。
 そうだ。
 これは、『嫉妬』と言うのだった。

「………………嘘つきはぼくのほうか……」

 ちいさなつぶやきは、風に乗ってどこかへと流れていった。












 アイメン唯一の錬金術工房は、まるで火の消えたかのようにひっそりと静まり返っていた。
 閉じられた扉に耳をつけて、物音がしないか息を潜めてみる。人の声ひとつしない。
「……ククロル? ククロル? 開けてくれないか」
 扉にすえつけられた輪を控えめに鳴らすと、のぞき窓から見覚えのある薄青の瞳がこちらを見て、すぐに引っ込んだ。鍵が鳴る。
 キールの表情から彼がすでに落ち着いていることは察しているのだろう、ククロルは苦笑して意外にもあっさりと彼を中へ誘った。
「……メルディは?」
「寝てるよ。……ロッテがひどく怒ってる。覚悟はできてるか?」
「…………なんとか」
 小声で会話を交わし、キールは先に行こうかと目で聞いてくるククロルにかぶりを振った。
 自分で蒔いた種だ。自分で刈り取るしかない。
 ぎし、と部屋の敷居が音を立てた。
「ククロル?」
 部屋の中でうずくまっていた少女がふりかえる。彼女はキールの姿をみとめた途端に眉を逆立てて何かを言いかけたが、続けて入ってきたククロルが寝台を指し示すと、慌てて両手で口をふさいだ。
「……何しに来たのよ」
 メルディが寝台に寝かされている。キールが近づこうとすると、ロッテは挑戦的な目をして彼の前に立ちはだかった。
「まだ何か言う気なの? いくらメルディがいいって言ったって、あたしが許さないわよ!」
「……そんなつもりはない」
 キールは穏やかに否定してロッテを押しのけ、寝台の傍らに膝をついた。大きな枕に頭をうずめるようにしてメルディが寝息をたてている。
 顔色が悪い。暗いせいだけではないだろう。それなのに、頬だけは幾筋も流れた涙の痕が残って赤く腫れあがっている。そっと手を伸ばすと、新たな涙がまた一筋頬を伝った。夢の中でまで、新たな傷を作っては泣くことを繰り返しているのだろうか。
 ふわふわと髪を梳く手つきの優しさに、ロッテは刺々しい態度をとりあえずは収めることにした。心底後悔しているようだし、いつまでも腹をたてていても仕方がない。
 だが、これだけは言ってやらねば。
「メルディね」
「?」
 セレスティアンにはあり得ない、深い色の瞳がこちらを見返す。部屋に落ちる暗闇と同化したそれからは彼の感情を読み取ることはできず、ロッテは鼻を鳴らして続けた。
「メルディね、あなたに嫌われちゃったってすごい勢いで泣いてたのよ。散々泣いて、泣きつかれて、やっとさっき寝ついたとこ」
「……そうか」
「それだけ?」
「それだけって……」
 語気強く問い詰められ、キールはおもわず後ろに一歩あとずさった。背中が寝台に当たる。それにもかまわず、少女は怖い目をしてずいずいと顔を近づけてくる。
「だいたいねえ、あなた何もわかってないわよ。メルディがあなたのことを嫌ってる? 嫌いな相手に何か言われたくらいで、この子がここまで落ち込むわけないでしょうが。あなたは嫌いな相手に嫌いだって言われたら泣くの?」
「……あー……いや」
「いやじゃない! はっきりしなさい!」
「こら、ロッテ」
 肩に手を置かれて、ロッテははっとして振り向いた。ククロルが苦笑している。ロッテはわずかに唇を尖らせたが、結局はおとなしく身体を引いた。
「……だって」
「いい友達を持ってるもんだな、メルディも」
 キールはちいさく笑い、メルディの細い首の下に手を差し入れて彼女の上体を起こした。男性としては非力なほうになる彼とても、メルディほど華奢な少女であればなんとか運べないことはない。
「連れてくの?」
「ああ。きっとリッドとファラが心配してる」
「じゃああたしも途中まで一緒に帰る。ククロル、遅くまでごめんね」
 言って顔の前で手を合わせる少女に、ククロルは首を振って微笑んだ。
「かまわないよ。二人とも、気をつけてな」
「うん」
「……じゃあ」


 ククロルは三人の姿が見えなくなるまで戸口に立ち続けていた。












 ロッテとは、途中の小道で別れた。
 再三再四「絶対にメルディに謝ってよ!」とうるさく言われ続けたが、反論する気にはならなかった。ただ穏やかに苦笑してうなずいた彼に、彼女は一瞬驚いたような表情を見せてから笑って、手を振って消えた。

 今は、二人きり。ひとかたまりの長い影が行く手に伸びて、ゆらゆら揺れている。

 明日メルディが起きたら、なんと言おう。
 謝らなければならないことは明白だけれど、今まで嘘をついていたことも謝ってしまわなければならないだろうか。けれどそうしたら、まさに今日自覚した想いも一緒に伝えてしまうことになってしまうのだろうか。

 ふわふわと、眠る少女の吐息が首筋にかかるたびに跳ねあがる鼓動。得体が知れない感覚だと、ずっとそう思っていたのに。


 認めてしまえば、こんなにも簡単な答えがそこにはあった。






 嘘つきは嫌いだ。

 だけど自分も嘘つきだった。
 彼女を責められた立場ではないことがわかってしまった。
 さてどうしようか。


 とりあえずすべては明日になってからだ。







--END.




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あとがき。
長いし。無理やり一本にまとめま死た(笑)
ええ、またもやひっどいことを言ってメルメルを傷つけるキールさんでした……
ってかマジかよ!(笑)
ようもまああそこまですごいこと言えるもんです。人間キレると何するかわからないネv(おい)
アイメンの住人を出そうっていうのはずいぶん前から決めてたんですが、ハミルトとククロル&ロッテコンビのどちらにするか最後の最後まで迷った…
単純に嫉妬心自覚だけならハミルトのほうがよかったかもですな。
メルディが本心からの笑顔をキールに見せられないのは、まあ彼女の胸の内の問題もありますがもっぱらキールのせい(笑)
だってさー、そんな話しかけるたびに「ぎっ」とかにらまれてごらんよ、そりゃかまえちゃうってば(笑)
ちなみにこの時点ではキール→メルディは恋愛初期ですが、メルディ→キールは単なる親愛の情です。
個人的にはそんな感じ。メルメルの中でこれが恋愛感情になってくにはまだちょっと時間が必要。
でもキールのことを好きだって言うメルディの言葉にはなんら偽りはないじゃろうね。
バリルと同じですもの、キール。性格は違いそうだけどさ。
キールさん、絶対「嘘つきは嫌いだ!」ってタイプだと思うでス。子供っぽい潔癖症っていうか。
まあ私も嘘ばっかつくヤツは好きじゃないがね!(笑) 
ただ、世の中には必要な嘘、相手を思いやるがゆえの優しい嘘もあります。
それに自分で気づかないうちに本心だと思い込んで嘘しゃべってることもあります。
んだから単純に善悪で図れる問題ではないのだがね。

ニアミス29999Hit、野原亜利さまのリクエストでした。
「気持ちを自覚し始めるキール」。
……。
……どこがッ!? いや、自覚してますよホラ! 自覚だけは!
…んでも全然甘くないですね。単なるシリアスだわさこれ…
こんなんだけど捧ぐ!(置き逃げ)