穏やかな再会へ





 星の海に、上下の感覚はない。上を向いても下を向いても、見えるのはどこまでも続く真っ暗な闇と、輝く星々だけ。
「リーッド」
 寝室の窓からぼんやり外を眺めていた青年は、聞きなれた声に視線を動かさぬまま意識だけをそちらへ向けて答えた。
「どうかしたのか?」
「んー? 別に、用があるわけじゃないけどね」
 ふわりと空気が動き、幼なじみが隣に並ぶ。
「なんだかんだいって、リッドって空好きだよねえ。もう何時間眺めてるの?」
「……んなこと、覚えてるかよ」
「あはは」
 ファラは短い笑い声をあげてどさりと寝台に腰掛けた。
「久しぶりだよねえ……元気にしてるかなあ?」
 リッドも窓からはなれ、ファラに向かい合うようにして寝台脇のソファに腰をおろす。
「心配なんざいらねえだろ。メルディはもともとあっちで育ったんだし、キールはキールでセレスティアの連中とはやたら仲良かったしなあ」
「こっちがびっくりするくらいね」
 そうそう、と二人は顔を見合わせて肩を震わせる。


 あの戦いの後二人が気づいたのは、ラシュアン近くの小高い丘の上だった。いつのまにか村人の手で再建されていたらしい見晴台の近く。目を覚ましてまず無事を喜びあい、他の仲間たちが見当たらないことに気づいて一度は蒼白になったものの、混乱していた意識さえ落ち着いてしまえば、彼らのいるであろう位置は簡単に予測がついたから、とりあえず村に戻った。門からではなく森の奥から現れた二人を最初に見つけたのは通りで遊んでいた村の子供たちで、知らせを受けて走ってきたファラの叔母や村の大人たちに請われて戦いの顛末を話した。
 その後バンエルティアに残っていたチャットが訪ねてきて、彼女を伴い王都に向かい今度はアレンデ王女に謁見した。
「わたくしもセレスティアの大地をこの目で見とうございますけれど」
 頬に手を当てて王女はつぶやいたものだ。
「わたくしが今王都を離れるわけにはまいりませんものね。残念ですけれど、お話だけで我慢することにいたしますわ。帰っていらしたら、また会いに来てくださいましね」
 グランドフォール時にアレンデが発揮した手腕は国民に高く評価された。未だ公の場には姿を現すことのない王と王妃に代わって、今では実質彼女が王国の全てを動かしている。世界の崩壊という大事の後もたいした混乱もなく人々が生活できているのはこの王女の存在が大きかった。
「みんな連れてきてあげられれば良かったんだけどね」
 伸びをしながらお気楽に言うファラにリッドは思わず苦笑をもらす。
「何言ってんだよ。セレスティアに行きたいって連中全員乗せてたら、今ごろ間違いなくこの船沈んでるぞ」
「あはは、まあねー。すごかったよね、大学の人たちみんな目の色変えちゃって」
 知識欲というものは尋常ではないらしく、さして体力があるとも思えない学生たちを振り切るのは至難の業だった。最後は結局アレンデの代わりにと見送りに来ていた兵士たちが権力でもって彼らをおとなしくさせてくれたのだが、バンエルティアに密航しようとする者まで出て、とても穏やかな出発とはいえなかった。
「オレぁキールが大増殖したかと思っちまったぜ」
「あ、あははははは! やだあリッドったら! お、おかしすぎだよぉ……」
 おなかを抱えて笑い転げるファラ。リッドは微かに赤くなって「けっ」と背もたれにもたれかかった。
「ホントにそう思ったんだ。仕方ねえだろが」
「はーいはい」
 くすくす笑いながら、ファラは立ち上がった。
「どこ行くんだ?」
「厨房。そろそろおなかすく頃でしょ。何が食べたい?」
「へっ?」
 リッドは腰を浮かせかける。
「気づいてすらいなかったの? もうずいぶん遅いよ。ほんとに空が好きだねえ」
「う、うるさいな。……そういや腹減ったような……今何時だ?」
「夜の十一時!」
「マジか!?」
「マジだよお。ほら、何食べる?」
「あ、ちょっと待てファラ! 今考える!」
 二人はばたばたと廊下を駆けて行った。
 再会のときは、すぐそこに待っている。







--END.




|| INDEX ||


あとがき。
短いです。余計なものを入れまいとしたら(笑)
リッドとファラの会話は結構書きやすい…かな?
会話というより、口調が想像しやすい。スキットが多いからかなあ。
この二人って、登場時からすでにくっついてるような印象を受けますよね。
村長からファラをかばったり、村をでるといった彼女を心配してみたり、まあいろいろ。
それらしい会話が出るたびに私「ギャー!」とか叫んでました(笑)
でもあんまりいちゃつく二人は想像できないんだなあ…なんかこうさっぱり系というか。
いちゃついてる姿が想像しやすいのはキールメルディかな。
リッドファラはそんな様子全然見せずに、気づいたら子供できてそうな気がする…(笑)