アイメンな街の人々F〜街は踊る〜
「キール。ごめんな」
水場で汚れた食器を二人で片付けながら、メルディが目を伏せる。しゅんとうなだれたそのメルディの姿はまるで小さな子猫のようだ。あまりの可愛さに隣で食器を拭いていたキールは抱きしめたくなるがあわてて首を振り言い募る。
「馬鹿。さっきも言っただろう。別にお前が謝る必要なんて全然ない」
「でも、失敗しちゃったな」
と天井を仰ぎ嘆く様をする。先程とったばかりの料理のことをいっているのだろう。
あの後、仕上げを待つばかりだった料理の数々だがキールが帰ってきた事により仲直り(?)に夢中になった二人が焦げた臭いに気が付いたときには時既に遅し。料理は無惨な姿を二人にさらした。
焦げたパンと煮立ちすぎた野菜スープ、茹ですぎたカルボラーナスパゲティ。普段なら絶対にしないような料理の失敗作品。
それらの品を作ったのは確かに彼女だが、原因は――
「どちらかというと、その、僕のせいだし」
と言いつつキールが頬を少し赤らめた。その様子にメルディも思い出したのかつられて赤くなる。
「だから、もう気にするな。ちゃんと食べられたんだし、気持ちだけでも、その、すごく僕は嬉しかったんだからな」
キールは先程から同じ食器を手の中で回しながら、仲直りにして見せた大胆さとはまるで別人のように赤く染まった頬を耳まで赤くした。
「はいな」
メルディがにっこり笑って最後の皿をキールに渡す。
ちょうどその時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「誰か?」
一瞬二人で顔を見合わせてから、メルディが濡れていた手を拭き玄関の方へむかう。
とそこには――。
「なあ、変じゃないか?」
「キールさっきからそればっかりな。大丈夫! とても格好良いな!」
そう言って上機嫌で腕を取り、一際大きな晶霊灯ある広場への道を急がせる恋人にキールは少し顔を赤らめ、視線を外したままぼそりと言う。
「その、お前もよく似合っている」
「はいな! ありがとなキール」
メルディはキールの腕にからませた手を外すとキールの前でくるりと回ってみせる。
赤い生地のワンピースに重ねられた桃色のカラシリスが、おろされた薄紫の髪が広がる。その拍子に微かに漂ってきた甘い香りに本当に花のようだなとキールは見とれた。
「こらぁ。惚れ直してないで、さっさと進む!」
「そうそう、早くしねーとご馳走を食い損ねるぞ」
そういって立ち止まったキールの背中を押すのはジードで、その横をすり抜けてメルディに追いつくのはセレナとマリオットだ。
「うん!二人ともよく似合ってるじゃない。やっぱわたしの見立てに間違いはなかったわね」
キールとメルディを見回しながら、誇らしげに胸を張るマリオットにキールは苦笑いを浮かべる。普段とは違う格好に戸惑いがあるようだ。
市場の延長なのか、広場に集まった人々が宴会を始めたというので、キール達も呼び出されたのだが。どうせならと、メルディはキールが仲直りにプレゼントした服を、キールはマリオットがあつらえたセレスティア風の衣装に身を包んでいた。だが、その色彩は鮮やかでインフェリアの衣装にも思える。素材は丈夫で軽く、ゆとりはあるが機能的であり華やかな印象、二つの文化の良い部分を組み合わせたそれは当たり前でいて今までの世界になかったモノだ。今はまだ小さくささやかな試みが少しずつ、二つの世界で生まれてきているのだ。
キール達が広場に足を踏み入れると、町中の人間が集まったのではないかと思える人がそれぞれに酒の杯を仰ぎ、穏やかに談笑している姿が目に入った。それでもキール達が通り過ぎると一声二声があげ、手を振る。
それらに答えながら、赤い上着の裾を翻し、セレナ達の先導で広場の中心へいくとそこには気の知れた人々が歓声を上げる。サグラやポンズ、図書館司書や、行きつけの店の主人や従業員たち、インフェリア人の姿もある。
「よく似合ってますぜ」
「すごーい。本当に王子様とお姫様みたいだー」
「仲直りは出来たみたいね」
「良かったな」
口々に掛けられる言葉に二人は笑みを零した。
「ありがとな! みんな!」
「おかげさまで」
幾分キールが照れた様子で言うと
「随分素直じゃないか」
とジードがからかう。
「お礼なら3000ガルドでオーケーよ」
「おい」
「冗談よ。でもそうね……」
セレナは少し周りを見渡すと晶霊灯の前にある開いた場所を指していった。
「メルディ踊ってよ! 久しぶりに見たいわメルディの踊り」
「はいな! お安いご用な! でもセレナが一緒に踊るな!」
「ええ、私も?」
驚くセレナにメルディは笑顔で手を引いていこうとする。
「楽しいこといっぱい。みんなですると幸せな!」
その笑顔にキールが目を細めていると、隣にいたジードが肩を叩き一歩前に踏み出した。
「?」
一瞬いぶかしげな表情をしたキールに彼は悪戯をひらめいた子供のように笑って、メルディの手からセレナの腕をとった。
「じゃ、踊るか。メルディはキールとな!」
「ジード!」
唐突なその言葉に非難めいたキールの眼差しも意に介さずジード達は前に進んでいく。
キールが周りに視線を向けるとみんなにやにやとした楽しげな表情で見ている。
どこか諦めた面持ちで視線を前に向けるとメルディが少し戸惑ったようなそれでも期待を見せるように目の前に立っている。
「キール」
「……一曲だけだぞ」
「ワイール! キール大好きな!」
少し躊躇って一歩踏み出すキールにメルディの小柄な体が躊躇いもせず飛び込んでくる。反射的に広げた両手で受け止めたが、バランスが悪かったのでそのまま後ろに倒れそうになる。だがその背を支える手が幾つも差し伸べられる。
「「ありがとう」な」
--END.
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紫雲英の戯言。
…すう。…はあ。…すう。(深呼吸中)
…ふううううぅ〜。ふふふ、なんとか絶叫せずに抑えたゾ!(←阿呆)
と、いうわけで螺旋さんからいただいたキルメルアーンドアイメンの人々小説でしたーv
ああもう楽しすぎ。ビバぼの!!(悶)
えっと、この中の、ジードとセレナと、あと食材屋の女将さんと魚屋の店主親子と司書夫婦…が、私のオリキャラ。の、はず(笑)←覚えとけ…
「誰だよ?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、彼らはこのサイトのいずこかにいます。
それで、お針子マリオット嬢が螺旋さんのオリキャラv
お話に私のオリキャラを混ぜたいとメールいただいて「じゃあうちにも載せさせてくださいv」と(笑)
一応主張しときますが、螺旋さんだからOKしたのよーう!
そしてこんなにステキに無敵なお話となって帰ってまいりました。みんなイメージまんま。
特にマリオットとジードとセレナが三人がかりでキールを苛めている場面(爆笑)は楽しくて楽しくてしょうがなかったです。
そして「仲直りに夢中」の記述にもゴロゴロ転がってました。
仲直りに。夢中。…くは!(←思考の腐れてる奴の言うことです。気にしてはいけない)
きっとキルメル含むアイメンの日常はこんな感じなんでしょうね〜v いいなあほのぼのv
どうもありがとうございました〜!
…ところで。隠しタイトルは「アイメン生血の人々」だそうですが、私は一発変換で普通に「アイメンな街の人々」と出ました…うむむう?(笑)
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